このページの画像は静岡県立中央図書館のデジタルデータを利用して構成している。また、データに関しては東京大学史料編纂所錦絵データベースを参考にした。
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大英図書館に異版がある。パブリックドメインとして画像が公開されているので BRITISH LIBRARY IMAGES ONLINE から画像を利用させていただいた。
大英図書館とアジア歴史資料センターの日英共同研究として、「描かれた日清戦争」というインターネット特別展示行われている。 注目すべきは清国側の絵画資料も56点展示されていることだ。さらに、この資料が蒐集されたのが、1895年であり、日清戦争とほぼ同時進行で収集されたということである。大英図書館のメッセージによると、「国際紛争を記す重要なビジュアルレコードとして認識していた」とあり、錦絵が記録画として評価されていたことがうかがえる。最初に収集に当たった大英博物館から1973年に設立された大英図書館のアジア部門に管理が委託され現在に至っている。
大英図書館での分類は以下の通りである。
大英図書館請求記号: 16126.d.1(6)
タイトル: 平壌二於日本兵旗取図
絵師: 梅堂小国政 (五代目歌川国政) (?-1923以前)
出版元: 片田長治郎
出版情報: 1894
大英博物館受入情報: 1895/06/11
内容: 平壌
製作国: 日本
サイズ (cm): 75.9 x 39.7
FilenameB20107-10
Source16126.d.1 (6)
Title of WorkHeijō ni oite Nihon hei hata o toru no zu
Shelfmark16126.d.1 (6)
AuthorArtist/creator"Baidō Kokunimasa (Utagawa Kunimasa V) (.)"
Place and date of production1894
LanguageJapanese
Credit© The British Library Board
A Japanese soldier captures a flag during the Battle of Pyongyang
大英図書館に異版あり。だがしかし、実はタイトルがかわっている。牙山から平壌へと約1月半の後の刷になる。驚くべき商魂である。御届け日は大英の解像度が低いのではっきりとは読み取れないが、全くかわっていないようでもある。タイトルだけではなく画の方も相当な変化がある。後刷りの場合、製作は既に絵師の手からは離れ、色使いには刷師の構想が強く出てくるとも言われるのでその変化なのであろう。静岡→大英の順に比較してみると、まず全体のトーンが全く違う。静岡の方は背景が前景の明るい白茶、中景の灰色の山並み、背景の明るい火炎に染まる空と三段階に変化しており、戦場全体を俯瞰するような広がりが感じられる。一方大英博物館蔵作品の方は背景は、色調の違いで三段階に分かれるものの、全体に暗いトーンで統一され、視線は全体というよりはむしろ中央の戦闘そのものに引きつけられる。その色構成に応じて個別の色彩もかなり変化している。特に大英版の方の左から右に少し斜め上がりに配置される鮮やかな紫は土地のライン、山のラインと相まってすっきりとした画面構成を演出している。さらに、中央で槍を突き上げる清兵の上着が本来陰影として描かれた部分を黄色地に赤という派手なコントラストにかえたことで、いやでも視線は中央の戦闘に引きつけられる。本来逞しい商魂から出発したにすぎなかった後刷りが、絵師の意図を離れたところで、表現の洗練を生んだという不思議な現象が起こったわけだ。さらに、大英版の兵器は暗い背景と部分的な塗り残しで、独特のリアリティを持って表現されている。後刷りがはっきりと示された貴重な一例と言えるだろう。
上にお示しした図はすべて「西南戦争錦絵」からの図である。馬上の武人が軍旗を巡って争う図は西南戦争の時に多く見られた主題である。西南戦争開戦初期に政府軍の将校であった乃木希典少佐は戦闘中に軍旗を奪われてしまう。その軍旗を取り返したのが、政府軍第2旅団参謀長野津道貫大佐ということになっている。(実際は戦後まで見つからなかったらしい。)このテーマをそっくり借りてきて、日清戦争に当てはめたのが、当ページの作品ということになる。つまり、西南戦争のテーマをそのまま借りてきて日清戦争で売り、次には、タイトルをかえて、戦勝ブームの次の波にあわせて売り切る、というような便乗商売のお手本のような作品であると言えよう。
以下リンクをお示しする。
001鹿児嶋征討記之内 高瀬口河通ノ戦争野津公聯隊旗を取返ス図
004鹿児島征討記内 熊本城ヨリ諸所戦争之図〔野津大佐軍旗を奪還す〕
B003鹿児嶋征討記之内 高瀬口河通ノ戦争野津公聯隊旗を取返ス図(001の異刷)